家での静かな一週間

初心にかえって、ヤン・シュヴァンクマイエル
アートアニメ(という表記は好きではないのだが)という総じて認知度の低いジャンル(?)において、やはりヤン・シュヴァンクマイエルの認知度と人気はダントツのことだろう。しかし、シュヴァンクマイエル好きといっても、当然様々なタイプがある。
例えば、さほど難解にならず、軽い気持ちで楽しめるアングラ感やとがった感じの現代アート、こういったものの受け皿は日本では殊に大きい(気がする)。シュヴァンクマイエルの認知のされ方ではこれが一番だと思う。作品でいえば『アリス』などの長編や、短編の「フード」。
あるいはチェコ好き。最近東欧雑貨が流行ってることもあって、そういった人もかなり多そう。可愛い顔して、裏がドス黒いという諧謔味(まあ、シュヴァンクマイエルは決して可愛くないが)、お涙頂戴にはならないアイロニー云々といったチェコ人気質に惹かれる人はいるだろう。また、チェコの歴史や政治を踏まえた興味をもつ人もいる。
そして、アニメーション好き。このパターンはあまりいない、気がする。僕が短篇アニメーションに興味をもつ切っ掛けはシュヴァンクマイエルなので、今でも最上のリスペクトではある。が、世界各国のアニメーション技法を眺めた後では、ちょっとシュヴァンクマイエルに引いている気持ちもある。前まで好きだった作品でも、やや物足りなく思うものもある。良くも悪くも、これはアニメーションの入門なのではないかなあ、と。入門としては、あまりに贅沢なレベルの話なのだけれど。
そんなシュヴァンクマイエル作品で、今も昔も一番好きなのが「家での静かな一週間」(たぶん人気は決して高くない)。おっさんがある家に立てこもって、壁に穴あけ隣の部屋を覗く。隣の部屋で椅子や食器や玩具といったオブジェの数々が自由自在に動き回るのを眺める、ただそれだけの話。シュルレアリスムに接近するシュヴァンクマイエルの作品にあって、とりわけシュルレアリスティックだ。というか、このオブジェの世界観はかなり意図的にアンドレ・ブルトンらを意識したのでないかと思われるが。
結局のところ、モノがどのように動く(動かされているか)ということのみに焦点が据えられたような作品。この残像混じりの動きや予想を斜め斜めへと突き抜けていく展開から、極上の連作短篇集といった感じ。ヤン・シュヴァンクマイエルの作品は基本的に、いけな〜い世界に無邪気に近づいていくような醍醐味があるのだが、こういった壁穴の覗きという点にそれが見事現れている。
「動き」を演出するアニメーションとして、覗きという童心じみた悦楽として、これがシュヴァンクマイエル作品として一番原初的な魅力を誇っている。と思うのだが、まあどんなものか。

そして動画が見つからない。
このDVDが一番最初に観たシュヴァンクマイエル。これが最初でなかったら、こうもこの世界にはまらなかったのではないかと思う。それが良いか悪いかは疑問だが……。