八月の博物館

八月の博物館

八月の博物館

「故 藤子・F・不二雄先生に捧げる」とある本作、ドラえもんを意識したような点が多い。《同調(シンクロ)》によって過去へと時を遡るのは、「タイムマシン」を意識しているだろうし、シロナガスクジラの髭とバイオリンの弦といった細かいモチーフもドラえもん譲りか。また、過去のエジプトを舞台に邪神の復活と、それを阻止する冒険ファンタジーは完全に大長編ドラえもんのノリか。そして、後半から物語の作者を巡るメタ・フィクションとしての側面が強くなるが、それも「あやうし! ライオン仮面」を意識させる。あと、満月博士も出てくるし。

小学六年生の亨と、不思議な建物「THE MUSEUMU」での謎の美少女・美宇子との出会い。作家である「私」の小説作法と悩み。そして、マリエット博士のエジプト発掘。主に物語はこの三本から成り立っており、後半に行くにつれ、それが複雑に交差していく。
とはいえ、メタフィクションが読者を混乱に導くような複雑なものでもない。ハードSF的なアイデアもシンプルに料理されており、非常に取っ付きのよい作品だ。古き良きジュブナイルSFといった感じか。
ドラえもんという漫画が「すこし不思議」を超えて、「すごく不思議」なアイデアが大量に投入されているように、本作も多くの驚異に満ちている。それが主に「博物館の博物館」という何でもアリ、四次元ポケットをとっちらかしたような博物館に集約される。博物館、パリ万博、そして長い歴史や国を飛び越えて現れる、多くのモノたち。それに触れる少年の原初的な愉しみ。奇も衒いも無く、物語の極上な魅力に満ちている。素朴ながら、いい作品です。

文字とそうでないものがせめぎ合う狭間、それがミュージアムなんだよ。小説とよく似ていると思わないかい?