蝶とヒットラー

蝶とヒットラー (ハルキ文庫)

蝶とヒットラー (ハルキ文庫)

モノ小説が好きです。夜の夢のなかでオブジェが鈍色に光る江戸川乱歩や、世界を百科全書のように掌握する澁澤、あるいはモノと記憶とがフェティッシュに混交する小川洋子や、はたまた脳内で広大なワンダーランドを繰り広げるスティーヴン・ミルハウザー等々。

本作もまたその系列に連なる作品。鳥獣の剥製、義眼、パイプ、ドール・ハウス、貝殻といったモノにまつわる様々な店が黄昏の東京の町から静かに浮かび上がる。その店が名前と住所が付されてはいるけれど、本当にあるのかどうか疑わしく思えてしまうような、どこか不思議で素敵だ。
これらをアーサー・マッケンやエドガー・アラン・ポー、あるいはヴィスコンティやリリアナ・カヴァーニの『愛の嵐』といった映画をコラージュにしながら、夢のまどろみに似た風景を描く。個人的には宮谷一彦の『孔雀風琴』なんて気になった。
でも、かなりエッセイ風の語り口は抑制がききすぎて、いささか物足りない。どこか久世光彦の一人語りといったようで、その語り口に引き込まれないのが……。しかし、ナチス軍服萌えの「地下軍装店」は乱歩とかとは異なった味わいで良い感じ。

私は一度でいいから四谷シモンの髪を金に染め、目に地中海の海色のコンタクトレンズを嵌めさせ、親衛隊の軍服を着せて立たせてみたい。飽かず眺めていたい。