ハグルマ

ハグルマ (角川ホラー文庫)

ハグルマ (角川ホラー文庫)

デヴィッド・クローネンバーグは決して好きな監督じゃない。ゲームとリアルとの境目がわからなくなっていく恐怖を扱うというベタなモチーフは好きなのに、『イグジステンズ』のしょぼさったら……(クリストファー・プリーストがこの作品のノベライズしてるけど、どうなんでしょうか)。『ハグルマ』の作中にも、ゲームにのめりこむ内に腰が痛くなってくるとあるけど、クローネンバーグを意識してのこと?

まあ、それはさておき本作はそれをもっと大胆に虚ろに崩してみせた傑作。ゲラゲラ笑いながら堪能。
現実と虚構との差の激しさから恐怖を徐々に盛り上げるのではなく、『ハグルマ』は序盤から現実そのものがズレている。現実も虚構も共にわけがわからず、お互いに競い合うように世界がコワレていく。説明も極端に省いてあり、心底凄い不穏感を覚えたものである。
お互いの意思(歯車)が噛みあわなくなっていき、中央の空洞が広がっていく。改行が非常に多い、説明的な文章がない、朦朧とした描写、擬音の多様といったように、露骨にスカスカな文体だが、この虚ろな世界観に非常に緊張感をもたせている。初めからテンションが狂ってるのに、どんどんドライヴ感がかかるところも凄い。深く考えずに、勢いにのって超スピードで読むと、かなりいい気持ちになれます、素晴らしい。

現実もゲームも、そんなおれを待ってくれたりはせず、ただ時間の経過に従い、目の前で様々なことが進行していくのだ。
勝手に。
おれの意志には関係なく。
まさに、目まぐるしい速度で――。