愛 (文学の冒険シリーズ)

愛 (文学の冒険シリーズ)

「ちがうね、諸君、もう一度言うが、それは違う」と、おっちゃんが友人(?)のかつての恋愛譚を語り始める……と思いきや、その過程やロマンスはばっさりカット! 間にでっかい空白を挟み、突如のカタストロフ。
ほぼ全ての短篇がこんな調子で、物語が急に切断され、何の脈絡も説明もなくスプラッター、セックス、スカトロ、屍体愛好描写に転じる。一瞬にして物語が切断され、彼方に飛翔するこの瞬間、衝撃は凄まじい。文章がひらがなだけで構成されたり、やたらと反復を挟んだりといった調子で、テキストが急激に濃密になる。何が起こったと前の文章を読み直しても、伏線があるわけでなく、そのざらっとした手触りだけが残る。妙に飛び道具めいたギャグ本でも、それが魅力的だと思えることは、この濃密でパワフルな文章にある。それが無ければ、しょーもないギャグ本にもならないだろうし。
と、瞬間の陶酔感覚は最強だ。が、流れに断絶を加え、物語の構造を破壊するという長所も、反復を重ねることで即座にマンネリズムに陥ってしまう。一冊の短篇集を通しても、巻頭の「愛」の試みが縮小再生産されているようで、後半に至るにつれトホホ感が増す。
こういったとろこは、長所も短所もダダ的でしょうか。でも、まだ亡くなっていない「故人」の葬式で、彼の秘密を暴露しまくる「弔辞」なんかは面白いですね。

議論は無用だ。それにその火のついたタバコ、目の前で振るのをやめてくれんか。話の腰を折るなよ。この老いぼれの話を聞き、しっかり頭に焼きつけるんだな。