世界名探偵倶楽部
- 作者: パブロ・デサンティス,Pablo De Santis,宮崎真紀
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/10/10
- メディア: 新書
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アルゼンチンのミステリということで、ボルヘスを想像するのは安易にすぎますか、そうですか……。まあ、今まで訳されたギジェルモ・マルティネス『オックスフォード連続殺人』(アルゼンチン)、ルイス・フェルナンド・ヴェリッシモ『ボルヘスと不死のオランウータン』(ブラジル)とかは、良く悪くもボルヘスの香りがするもんだからさ。本作は普通に日本の1990年前後の新本格みたいに思ったけれど。
アルゼンチン、ポーランド、フランス、イギリス、アメリカ、ギリシャ、日本……と世界各国の名探偵からなる《十二人の名探偵》メンバーがパリ万博の場に集結、そして連続殺人! そこで名探偵を夢見るアルゼンチンの小林少年ことシグムンド・サルバトリオくんが、探偵たちの競い合い、いがみ合いを横目にポーランド人探偵の助手として調査に乗り出す。
にっても、映画『名探偵登場』みたいに創作の名探偵たちをパロってるわけでなく、清涼院流水のJDCシリーズみたいに「あっち側」にイッっちゃってるわけでなく、わりと真っ当な作品かもしれない。
探偵たちが過去の事件を回想(自慢)しあったり、「アラジンの黒板」やスフィンクスを引き合いに出しながら(そして、当然日本人探偵は禅を持ち出すw)、探偵論を繰り広げる。こういったやり取りは面白いとも退屈とも言いかねる微妙なものだが、探偵たちで地位の落とし合いを続ける口舌はユニークだ。また、《十二人の名探偵》には会則なるものがあるらしい。「助手は男じゃないとダメ」とか「助手が探偵に昇格するルール」とか。皆がそれに縛られて行動するのが滑稽でもある。
自嘲半分・真面目半分に、変わりゆく時代の流れのなかでの探偵たちの模索を描いた諷刺劇で……って、奇妙にミステリ・ブームが勃興している日本では、ちょっと真っ当な作品に見えてしまうのが残念。探偵たちが多すぎて、多くのキャラが出番少ないのはご愛嬌(笑)。
「かつて助手だった探偵がいてもべつにかまわないじゃないか。われわれはみな助手だ。いつか探偵になりたいと夢を見ないものがいるだろうか?」