砂の王① ウィザードリィ外伝Ⅱ

古川日出男の第ゼロ作とも黒歴史とも……。神傑作の『アラビアの夜の種族』の原型となった作品として有名ではあるが、公式プロフィールでは伏せられてますね。あまりに作者がビッグネームになると、ラノベの作品は「なかった」ことになってしまうのか? 桜庭一樹はややその傾向が見えるだろうか、ラノベの作品が普通のレーベルで再刊されてはいるのだけど。

それはさておき、『アラビア〜』に対して、本作はメタ的な構成がされていない、三人の主人公が二人に絞られている、舞台とはややチグハグなユーモラスでおバカな口調がない、ウィザードリィゲームの規則が割と直接的に描かれている、等々の相違がある。
特に『アラビア〜』では悲劇なのか喜劇なのかよくわからない、登場人物たちのすっとぼけた口調や延々と脱線していく地下ダンジョンの様相がないこともあってか、真っ当に「ファンタジー」小説となっている(いや、まあ未完ではあるのだけど)。狂気と殺戮と魔術と剣戟と、流麗な言葉遣いによって骨太なファンタジーとして素晴らしい。ガチでハードな『ウィザードリィ』のノベライズとしてはいい感じだ。
となかなか楽しく読んだのだが、正直なところ『アラビア〜』が如何にすごいかを再確認するだけで終わってしまったような……。あえて読む必要はないのだろうが、古川日出男ファンなら読んどけ、という作品だろうか。

玉髄で描かれた三角形の内側に座し、二本の蝋燭の灯火の下で書物をひもといた。