燃えるスカートの少女

燃えるスカートの少女 (角川文庫)

燃えるスカートの少女 (角川文庫)

でっかい鯉だか大脳だかなんだかを、そっと抱きしめる少女の静かな眼差し、山田緑装画のイラストが素敵。そして、解説が堀江敏幸というのも心地よい。読んでみたら、菅啓次郎による訳文もあまりに精緻で柔軟で……考えうるかぎり、最高の組み合わせによる本、幸せな本だ。
恋人が逆進化して、猿へ、海亀へと変わっていく(「思い出す人」)、戦争で唇を無くした夫とキスが出来ない(「溝への忘れもの」)、父親が死んだ日に、客を誘惑して次々にセックスする司書(「どうかおしずかに」)。ちょっと日常から外れ、歯車が狂おうとも、そこにうまく適応するでもなく、寂しさや愛しさが前面に、しかし素直じゃない形で現れる。なんとなく思い浮かべたのはリチャード・ブローティガン村上春樹の短篇、そのボディーにケリー・リンクのような繊細な妄想力を搭載したような感じ。
あるいは、火の手と氷の手をもった二人の少女の不思議な間柄(「癒す人」)や無くしたものを見つけられることの出来る少年(「無くした人」)と、自分にもすこしふしぎな世界観に自分が強く浸っている作品もある。
どうにも世界の不可解さからは逃れようもなく、寂しさを一時的に紛らすことしか出来なく、決して暗いわけではない、ちょっと異質な世界。それをクールに見据える観察者の視点は的確で精緻で、どこか物悲しい。それでも本邦で強靭な想像力が自分を世界に解き放ち、さらに彼女たちは世界からの祝福さえ受けているように感じる。一瞬一瞬がまばゆい煌きに満ちた、あまりに美しい作品集。今まで読んだなかでも、最も素敵な少女小説だと思う。とりわけ、ラストにおかれた表題作の最後の文章は奇跡的な結晶だろう。

スカートが燃え上がったのを感じた最初の一瞬、あの子は何を思ったのだろう?