墨攻

墨攻 (新潮文庫)

墨攻 (新潮文庫)

電車内とかでさらっと読める、スマートに無理なく詰まった200ページ。いいね、こういう簡潔さは。

墨守」ならぬ、「墨攻」。儒家に比べて史料も少なく、歴史に消えていった謎の墨家(と始祖の墨子)。兼愛と非戦を説いたとは言われるが、その氷山の一角の史料を元に空想で紡いだ、歴史小説ともファンタジーとも、奇想小説とも?
墨子教団は戦争において各小国の守備を・防衛を受け持つ、軍事のプロというかコンサルタントというのか。その俊英・革離が趙の軍勢二万の前に数千しかいない遼のの小国を守らなければならない……。

攻撃・侵略でなく、あくまで墨子教団が知悉しているのは守備・篭城である。小説の題材としてはいささか地味に思えようものだが、その軍略、統率体制、土木・職能的な技術といった側面をきちっと描いてみせる。こういった側面に注目してみせるのがちょっと斬新に思えた(まあ、小説として斬新かどうかは知らないが、『戦国無双』的なものがゲームが流行っても、こんな防衛ゲームなんてあるのでしょか?)。
五人一組でチームを作り、それを集めた軍隊から小隊長を作り云々、規則にそむいたものは斬首云々、この時代にあって墨子教団の教えが徹底的に合理的な発想に基づいているのは、そのギャップも含めて大変面白い。非戦を説く墨子教団が何故こういった軍事に関わる仕事を担っているのか、何故歴史から名を消したのかに関する説明が尻すぼみというか、ちょっと半端に終わっているのが物足りないが、スピーディーで簡潔な語り口で一気に読ませるのは良いところ。
こういった歴史の謎は映画や漫画でどう扱われているのか、気になるところですが。

「勝てる道理はありません。私にできることは守ることだけです。ですから先ほど生き延びたいですかと尋ねました」