ハローサマー、グッドバイ

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

ハローサマー、グッドバイ (河出文庫)

SFとしても青春恋愛小説としても傑作とのことだが、……ごめん、ちょいと後者はピンとこない。SF好きとミステリ好きには大プッシュ作品だと思うけど。
夏の休暇を過ごすためにパラークシを訪れたドローヴは、そこで再開した少女のブラウンアイズとすぐに結ばれた素敵な関係になるわけだけど。特に何という理由もなく、二人が阿吽の呼吸でカップルになりスヰートな日常を……という点は、完全にバカップルでしょ。ただしバカップル小説の金字塔といえるヴィアンの『うたかたの日々』ほどに突き抜けないのが不満。ドローヴ少年がブラウンアイズに盲目的になればなるほど、周りを固める雑魚キャラの魅力がひきたってくるのが面白い。二人の恋愛の当て馬のツンデレ少女リボンの作中での変貌ぶり、KYでおバカなウルフ、こういったキャラに当てられる描写のほうが多いように感じるし、いいキャラしてる。そういった点をぬかして、ブラウンアイズ萌えで恋愛小説云々いう受容のされ方のほうにこそ疑問を感じるのかもしれない、作品自体よりも。
さて、ドローヴくんがスヰートで優雅な日常を送る間にも、周囲は不穏な空気に包まれてくる。戦争の影が町を覆い、敵国が徐々に攻め入ってくる。それに付随して、不思議な事件が次々に起こる。こういったなかで政府高官の息子というドローヴと普通の町人という立場の違いというべたな設定があるわけだが、同時に親との関係や軋轢といった問題も前面に出てくる。これまたドローヴの「大人はわかってくれない!」という小賢しい指摘が鼻につくが、大人側の視点も盛り込んで描くようにしてあるのがよい。
こういった恋愛と親との関係を通して描かれるのは、子供の成長ということなのだが、ちょっとドローヴの一方的な小賢しさがあって、いささか魅力に欠ける(だから、王道的で面白いという見方もあるのかもしれないが)。やはり本作のハイライトはミステリでもフィニッシング・ストロークなオチだ。ラストのどんでん返しで物語をきちっとまとめてくれる。これの続編もあるようだが、次作に暗示をなげかけるようなオチで絶妙だ。
が、象徴的なタイトルも含めて、これはハッピーエンドなのだろうかという疑問は残った。一抹の希望は与えられるけど、結構冷やかなものは払拭できないよな、というね。このオチについて、読書会とかで扱うと面白そう。

「この夏のあと、ぼくたちはだれひとり、前と同じじゃなくなってるだろう……それがこわいって思うところもある。すごくたくさんのものを、すごい早さで失ってるような感じがして。得たものも、たくさんあるけどね」