半身

半身 (創元推理文庫)

半身 (創元推理文庫)

数年前の「このミス!」一位作品ということで実力はあるけれど、結構好みが分かれやすいのじゃないかな。なんとなくユリっぽい雰囲気が強いのかと思ったら、それほどきつくはなかった。が、どうもゴシックロマンスめいた語りがかったるくて重たくて、あまり楽しい読物ではなかった。別に展開がゆったりしているのは気にならないのだが、変に息苦しい語りは苦手です。
19世紀の英国のミルバンク監獄、慰問としてそこを訪れるマーガレットと、そこには似つかわしくない不思議な女囚のシライナとの交情が描かれる。このシライナが捕まった理由が霊媒師であるということに関係しているのだが、作中では常に霊を肯定したような珍事が起こり続ける。牢のなかでも鮮やかな菫の花を取り出してみたり、マーガレットの私生活を詳細に語ってみたり、シライナは本当に霊媒なのか?
こういった謎を中心に据えたまま、監獄の陰鬱な雰囲気や女囚たちへの看守の心無い対応、監獄へ通うマーガレットへの家族の心痛、シライナが霊媒として覚醒するまでの昔話……といった様々なドラマが語られる。こういったあたりはいかにもグレート・ブリテン・ノベルを思わせる。ただし主に“文学少女”めいたマーガレット(作中で“老嬢”呼ばわりされるが)の日記形式で語られるため、上記の重苦しくなってしまう。
この監獄がパノプティコン様式であることと、霊媒能力とによって、視線の遍在性(どこから視られているか)が描かれる。これが近代的・前近代的な全くベクトルの異なる二つの形式で浮かび上がらせてあるあたり非常に上手い。そして、最後でその「視線」を操るどんでん返しが待っており、サラ・ウォーターズの技巧にうなるわけである。19世紀という歴史を描いた小説としてはなかなかオススメだろうか。

わたしが来ることでしか、人間らしさを取り戻せないなら、回数を減らすどころか、もっと足繁く会いに来るわ。