カフカの父親

カフカの父親 (文学の冒険シリーズ)

カフカの父親 (文学の冒険シリーズ)

イタリア作家の奇想小説集。カフカの父親がザムザさんだったら? ゴーゴリの奥さんがダッチさんだったら? ひょんなことから存在もしない言語で詩を書いてしまったら? という奇妙なイフで物語が支えられている。

各々の作品の印象が多彩なのがランドルフィの特徴だろうか? 表題作はグロテスクな寸劇のようだし、変態性癖がおもろいゴーゴリの妻」や幽霊(ごっこ)につかれた屋敷の「幽霊」などはファルスとして非常に面白い。意味の配分をめぐって言葉が暴れ出す「騒ぎ立てる言葉たち」はナンセンスなスラップスティック。他の作品もシュールでシニカルで、全てに共通しているのはクレイジーが引き起こす笑いだろうか。音が匂いや色、重さを持っているという「『通俗歌唱法教本』より」は論文形式なのが特徴的だが、毒が薄くかえって物足りなさを感じなくもないくらいだ。
何でも斬れる宝剣を手に入れた男をめぐる「剣」などはありがちな話だが、グロテスクな美学を一瞬で切り取るシーンの作り方などが上手い。射殺した死体に自殺処理をさせるため、拳銃を右手に握らせるか左手にするかでひたすら悩む「ころころ」なんて徹底的にバカ。こういった作品があるなら、もっと作品集を編んでもらいたいものだが。
イタリアの奇想ということでカルヴィーノ好きとかにオススメだろうか。ちょっと陰鬱とした辺りからカフカ好きとかにもよいかもしれない。

この蜘蛛の胴体が人間の頭をしていて、床から見上げるように君を見つめたとしたら、君は、いったいどうする? 死んでしまいたくはならないかい?