甲賀忍法帖

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

甲賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(1) (講談社文庫)

ヤマフー忍法帖の一作目。スーパー・スタンダードにして、現代作家なら荒山徹とかに通じる魅力があるのではないだろうか。
細かいあらすじは省略するとして、積年にわたっていがみ合っていた甲賀と伊賀の忍者が10対10の戦闘(戦争)を繰り広げる。地虫十兵衛や蓑念鬼、陽炎と忍者の名を見ただけで想像が膨らむというものだが、美肉で男をからめとる吸血くの一や強烈な粘液(というか、タン)を吐き出す蜘蛛忍者、急激に空気を吸い込んで真空(かまいたち)を発生させる忍者、と途方もない精鋭にしてフリークスの集まり。その忍法のひとつひとつに対して、とってつけたような科学的説明で押し切ろうとする辺りがまたおもろい。ノリはほとんどトンデモ本
その超絶忍法にしても長所と短所があって、強烈な力を発しつつも意外と弱い忍者にあっさり負けたりしてしまうのも、10対10という組み合わせの妙。本作には不死身という最強の能力を誇る忍者が登場しつつも、意外なところであっさり死んだりする点がバカバカしい。
物語の下敷きになっているのは『ロミオとジュリエット』なのだが、こういったベタさ故に安心して楽しめる。ただ久々に再読してみると、物語が完璧に構築されたように綺麗にまとまりすぎて、そこに物足りなさを覚えたのも事実。ヤマフーならちょっと暴走するくらいで丁度よい。
北村薫が本作を「忍法帖の楷書」といった形容をしていたが、その教科書的な所で好みがちょっと分かれるのかもしれない。まあ、あくまでスタンダードとして最高にスリリングな一冊なわけだが。

「ふびんや、しょせん、星が違うた!」