オートフィクション

オートフィクション (集英社文庫)

オートフィクション (集英社文庫)

恋する女の「ルック・ミー!」を過剰にした男女の非対称的な関係と、意識の弁を取っ払ったような超饒舌文章。文章の大半はゴミくずめいた駄文と独白で、典型的なまでにウザイ。で、終わってしまえばつまらない感想だろうが、この駄文の山にピュアな感情や笑いを忍ばせる手筋が非常にスマートなのだ。金原ひとみ随分と上手い作家になったな、と変に感心した。
22歳の作家リンが自伝的創作(オートフィクション)の執筆を依頼され、それを描きながら、18、16、15歳と年を遡っていく(「瓶詰めの地獄」とか『私の男』構成)。創作に「オートフィクション」という衣をかぶせて、過去の黒歴史と男遍歴と崩壊し続ける世界がドライヴ交じりに描かれていく。
「塩、塩、砂糖、塩、砂糖の順番が一番美味しいよ。いや、砂糖、塩、砂糖、塩が一番シンプルでうまいんだよ」と、貧乏仲間の食事の話(酒の肴?)の話なのだが、こういった笑いのセンスが非常に秀逸だ。一方で、「出たかった。一瞬でいいから、こんな皮から飛び出したかった。魂だけでもいいから、私から飛び出したかった。私から、解放されたかった」といった文章が描かれ、思わずハッとさせられることが多い。リンの極めて切ない心情もパラノイアな錯乱文章も、駄弁も全てが同じゴミのように混交して、ときには丁寧に区別され、本当に不思議な印象を残す作品に仕上がっている。山田詠美の解説にもあるが、同じパラグラフに「神」と「ウンコ」が閉じ込められていることもそうだ。
世界の全てに、愛する男に「ルック・ミー」を叫びつつも、その実周りを何も見ず、世界の全てを拒絶しているかの如き作品。異様なトランスとカオスに満ちている。ただ、個人的には文章の錯乱具合(作文=錯文)は『AMEBIC』のほうが過激で、こちらのが楽しく読んだように思ったのだが。

めちゃくちゃに体を振っていると、飲んだばかりのジントニックが私の血肉になっていくのが感じられた。ああ染みてる染みてるジンとトニックが私に染みてる染み込んでる! じわじわと吸収されていくジントニックは私のエネルギーとなるだろう。私は彼らに感謝するだって彼らは私のガソリンだから! 私の原動力だから!