ホワイト・ジャズ

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

ホワイト・ジャズ (文春文庫)

ブラック・ダリア』『ビッグ・ノーウェア』『LAコンフィデンシャル』ときて、《暗黒のLA四部作》のラストをかざる傑作。四部作を通じてのテーマは闇のLA史ということで、ずばり超悪徳警官ダドリー・スミスの陰謀と暗躍で作品が常に黒々と彩られている。これに対抗して追放しようとするエドマンド・エクスリー(とてもとても正義の味方などとはいえない)が決闘を仕掛けるのが本作。彼ら悪いおじさまがたの悪逆非道っぷりを完全に消化するためにも、これらの作品を是非とも順番に読んでほしいところ(『ブラック・ダリア』は直接繋がりはないから無視しても構わない、おもろいけど)。
何人もの登場人物が連続して登場し、降板し消えていき、血を流し、出世で耀き、歴史の暗部に追いやられ……と超絶的な大河小説。この一貫した流れは本作も同じ。ホモと善人、あと黒人は長生きできない1957年のLA、陰謀と策謀のままに暗躍するヒール、ギャングやワルな白人たち(だから『ホワイト・ジャズ』)……まともなものは何もないのだが、徹底的に脳髄を破壊してくれる。

発射した。まっすぐ正面を狙い、音を消して=ガラスが砕けた/漆喰が裂けた/おれも引き裂かれた。トランクを撃った――破片/コルダイト爆薬の薄煙――錠が吹っ飛んだ。
と、本作を特徴付けているのがやたらとフラグメント化した異様な文体。/や=、――の多用で綺麗な文章など微塵もない。プロットが非常に入り組んでいるため、ゆっくり内容を把握しながら読んでいきたいところなのだが、この文体を考えるとそれも合わない。狂熱と騒乱による超スピードの頭の回転とそれに追いつかない理性の間で生まれたような、このハードでドライな文体でスウィングするためにも、ハイスピードで目を動かしていくのがいいと思う。血、闇、光、金、暴走云々のカオスな空間を一気に駆け抜ける快感が味わえる。

とまあ、四部作の読了に四年以上かかった思い入れのあるシリーズなのだが、あまり書くことはない。この魅力を知るには読むしかないし。とりあえず、四部作ではこれと『ビッグ・ノーウェア』が最高傑作だと思うが、読み始める(爆死する)なら『ビッグ・ノーウェア』か、マイルドにいくなら『ブラック・ダリア』か。『ブラック・ダリア』と『LAコンフィデンシャル』は映画化されているが、どちらもオススメなのでこれから入るのもいい。やたら込み入ったプロットを丁寧に整理した脚本に拍手してあげたい。

ぐるぐるまわって、落ちる。
音楽。
闇/光/痛み――腕に注射、狂ったような至福。光=視界――目を取らないでくれ。

ところで、この作品やたらとアート・ペッパーが出てきて何故や? と思ったら、ペッパーは当時珍しい白人のサックス奏者だったか。白人の非道を描いた作品にこうやってペッパーの名を出すあたりが、また皮肉がきいているな。
でも、エルロイの世界に一番ぴったりなのはバド・パウエルじゃなかろうか。黒人という理由だけでポリ公に頭どつかれて、その後遺症のせいで芸術的なピアノのタッチが失われて、でもその後の根暗系うめきジャズのがはるかにおもろい演奏をしているという……どう考えてもエルロイ・チックじゃないか。


アート・ペッパーはほとんど聴かないからよくわからん。ので、パウエルの(多分)一番有名な「クレオパトラの夢」。物悲しい憂いを帯びた演奏が印象深い。