マイク・ハマーへ伝言

マイク・ハマーへ伝言 (角川文庫)

マイク・ハマーへ伝言 (角川文庫)

頭文字D首都高バトル、峠……云々と、よくよく考えたら市販の車がキーとなる物語にもゲームにもほとんど経験らしいものがないな。もしやマリカーとDCの往年の名作『クレイジー・タクシー』くらいか? ああ、『湾岸MIDNIGHT』はぼちぼち読んでたな。まあ、正直興味がないんだろうな。だから、本作の魅力を存分に楽しんだかというと、どうなんだろう。

スピード違反でパトカーに追跡され、首都高から墜落して死んだ。友人の仇を討つべく、マイク・ハマーら仲間が集まって調査に乗り出す。どうもそのパトカーの様子がおかしく、調べたところ「ホウレン草を食べすぎたポパイ」のような改造車らしい。そして……。
と、クールでカッコいい話だ。矢作俊彦がニューハードボイルドの旗手と紹介されているが、本作の一番の魅力も洒落た台詞回しだろう。カッコよさという点では、原籙に並ぶのではないだろうか。
克哉は、前を開いたグレイ・フラノの上着に風を集めながら、運河端を歩いた」……この程度は普通か。個人的に一番ツボだったのは、「マイク・ハマーの口調は、A3のフルハウスを、夜明けの七時半にやっと握りこんだ男みたいに、むきになりかけていた」……いや、まあどんな比喩に魅力を感じるかは人それぞれだけど。
物語も友人の仇という点から徐々に逸れ始め、友人同士の確執がぐじゃぐじゃとなり、ついに改造パトと決戦をし、そして……クラッシュ! こりゃクールだぜ。若者の粋のいい雰囲気や洒落た台詞まわしが好きならオススメ。

尻を振りきったキャディラックに、無理矢理進路を択ばされたダットサンSR三二〇は、真っ直ぐ夜空へ踊りあがった。