ビッグ・テイル

偶然動画を発見した、レイン・マーラット監督の「ビッグ・テイル」。数年前のソビエト・アニメ祭りで観た作品だ。以前一度観たきりだったにも関わらず、一瞬にして胸糞悪い思い出がよみがえる。
これはエストニアに伝わる不屈の勇士“ビッグ・テイル”の伝説をモチーフにしたアニメーションらしい。神話、民話、おとぎ話といったモチーフにアニメ、これで子供向きの作品化という先入観を覚えるかもしれないが、そんなものは不要だ。神話がマイルドにアレンジされてはいても、登場人物や神がエゴまみれで話もいや〜なものというのは珍しくないのだから。
悪魔の一味に虐殺されていく村人たち(?)を守るため、ビッグ・テイルが勇猛に立ち向かう、などという素敵な英雄譚にはとてもとても思えないのだが……。村人が悪魔の剣に倒れていく姿はグロテスクで恐ろしいが、ビッグ・テイルの暴れっぷりはその比じゃない。誰もが「人がまるでゴミのようだ」という想像をするにかたくない。テイルの恋人を殺す悪魔のほうが、道化的でチャーミングで感情移入しやくすら感じられる、のは気のせいだろうか。
赤を基調にした画面構成、ビッグ・テイルや悪魔やハイエナ、鳥といったキャラのグロテスクな造形、常にエコーがかった声が木霊するBGM。なんとなく「テイル、テイル、テイル……」と呼びかける声のように聴こえるが、単なるうめき声かもしれない。全てがいや〜な印象深さを残す。
まあ、いやーながらも個人的にはわりと好きな作品。とりあえず、この異様なインパクトを劇場で味わう姿を想像してもらいたいものだ。これを観たソビエト・アニメ祭りのプログラムを確認したところ、この「ビッグ・テイル」はノスタルジー・プログラムに入っていたのだが……ノスタルジー!?