そして夜は甦る

そして夜は甦る (ハヤカワ文庫 JA (501))

そして夜は甦る (ハヤカワ文庫 JA (501))

原籙の沢崎シリーズ第一作。チャンドラーから影響を受けたということもあって、巧みな比喩や軽口(ワイズラック)の数々による美しい文章が綴られている。そうした点では、チャンドラーを軸に村上春樹にも通じる文章にも思われ、ミステリやハードボイルド・ファン以外にももっと多くの読者に読まれている(読まれていい)作家ではないかと思われる。

いかにも都会の騎士・孤高といった形容がなされそうな沢崎のかっこよさ(至言の数々にマーカーを挟んで読むという楽しさがある)や、周りを固める登場人物のアクの強さ、するどい人物評、比喩の上手さ(「馬がチンチンしても入れるような」豪邸の扉といった、少々失笑気味のもあるけど)、文句のつけようもないほどの作品ではあるのだけれど、一番驚かされるのはそのプロットの緊密さ。
ルポ・ライターが行方不明になるという発端から東京都知事の狙撃事件の陰謀へと物語は展開していく。そして、ラストはちょっとしたどんでん返しといったレベルでなく、どんでん返しが二重三重とつながっていく。沢崎もハードボイルド探偵というより、「皆を集めて、さてと言う」名探偵と同じノリ。非常に練りに練られた作品だ。

その一方で、個人的に物足りなかったのは、ハードボイルド特有のキャラの魅力が稀薄になっているように感じたことだろうか。原籙自身「謎解きに深入りしすぎると、ハードボイルド性が稀薄になる」とインタビューで述べている(『もっとすごい!! このミステリーがすごい!』)が、シリーズが今後どのような展開を見せるのか、今更ながら原籙を追ってみたい。

個人的には練りこまれたプロットや複雑な物語を追うという読書があまり得意ではないのだが、幅広い読者にアピールする作品なのは間違いないだろう。

彼らはいつも肝腎なことを見落とす。真実を伝えると言うが、所詮はその程度のことだった。