田舎の事件

田舎の事件 (幻冬舎文庫)

田舎の事件 (幻冬舎文庫)

田舎といったら、「娯楽が少ない」「噂の伝聞が早い」「変化に乏しく、毎日平和」、ずばりこの三点に尽きる。そんな田舎でちょっと外のセカイに触れてしまった自意識過剰な哀れなピエロ、まあ「田舎インテリw」気味な人が起こす珍事件の数々。
水だけでそばを食わせる究極のそば屋(「無上庵崩壊」)、東海(しょうじ)大学合格を東大合格と偽ったり(「銀杏散る」)カラオケ喉自慢大会で英雄になるために真っ白のタキシードを買っちゃったり(「頭のなかの鐘」)とみんなイタイ子ばかり。
まあ、何かを目指したり背伸びするのは普通の発想なのに、そういった者に限って変人になってしまうという田舎のパラドックス。結局犯罪に手を染めたり嘘が膨れ上がったりとしながら、それを糊塗しようともがいて自滅。探偵も必要ないし、それを眺める観客もいるんだかいないんだか。ギャグミステリ・バカミスというより、ほとんど「ミステリ未満」小説ですね。
「田舎にちょっとイタタな子がおりました。ちょっと背伸びしたせいで村で大騒ぎです。嘘をごまかそうともがきにもがいて、最後はばくししました。それでも村は平和です。めでたしめでたし」といった感じ。ステレオ、誇張といった感想は野暮で、「狂人とは理性を失った人ではない。狂人とは理性以外のあらゆる物を失った人である」というチェスタトン言葉を地でいく短篇集。

武彦がなぜ脳を病んだのか、理由はつまびらかでない。数少ない友人の証言によると、あるとき「脳がなくなった」と妙な訴えをしたのがそもそもの始まりだった。