夢宮殿

夢宮殿 (海外文学セレクション)

夢宮殿 (海外文学セレクション)

東欧の作品で悪夢的だと何でもかんでもカフカ的と片付けたくなってしまうのはどうかとは思うが、不思議と不条理設定が多いようで近しいものを感じてしまうのは仕方がない。アルバニアの作家カダレの代表作(ただし、翻訳は仏語からの重訳となる)。

国民の見る夢を管理する帝国の機構《夢宮殿》、ここで集められた夢は害・無害かを「選別」し、精神分析的にその夢の秘めるアレゴリーを「解釈」し、国家の存亡に関わる大事な夢は「親夢」として扱われ、といった《夢宮殿》のおかげで国家があり続ける。こうした選別室、解釈室、筆生室、監禁室とが並んだ建物が具体的な描写をおびることはないが、主人公のマルク=アレムは幾度もこの迷宮機構で迷うことになる。なんとも不穏な作品だ。
この《夢宮殿》に新卒で入ったアレムは名門の家の出だからというわけか、とんとんと出世を繰り返していく。が、特に功をあげたわけでもなく、出世の理由は訊かされない。物語の後半でちょっとした動乱が起こり、《夢宮殿》の重役も次々に連行されていく。この事件に対してアレムが間接的に関与していると思われるが、彼の前の霧が晴れることはない。作中で扱われる「夢」そのものへの言及が少ないのは物足りないかもしれないが、代わりに「夢宮殿」の薄ぼんやりとした機構に焦点が合わされている。血まみれの国家の歴史も皮肉たっぷりに描かれながらも、全体として不明瞭なままだ。

作品で描かれているのは帝国主義批判なのだが、「夢」によって国民と国家をダイレクトに結び付けてしまったのが恐ろしいところ。夢による先読みというと古代の呪術的なイメージがあるが、それをあろうことか近代の敵国主義が管理というシステムで統治してしまっているのだ。現実からの逃避になる睡眠という道を奪われ、さらには自分が国家の重大事に関わっているかもしれないという恐怖、まさに究極的な悪夢だ。

作品のほとんどが絶版状態なのは残念至極だが、近々松籟社から出る(はずの)『死者の軍隊の将軍』を楽しみにしよう。

「黄金でできていたってかまわん! 馬どもがそいつを運ぶのをいやがるからには、夢じゃなくて悪魔の化身てことよ! わかるかね、角を生やした悪魔そのものさ!」