魔岩伝説

魔岩伝説 (祥伝社文庫)

魔岩伝説 (祥伝社文庫)

なぜ幕府は朝鮮に通信使を乞うているのかという謎をメインに、日光東照宮の謎、天海僧正の陰謀、江戸幕府の歴史云々といった多くのテーマを内包した豪華な時代伝奇小説。
日本と朝鮮を舞台に若き「遠山の金さん」が大暴れする冒険小説的な魅力に加え、次々に現れるトンデモ剣術や忍法とった奇想は山田風太郎を思わせ、時代考証に関する奇想の広げ方は隆慶一郎を思わせる、といったトンデモな小説。ちゃんと史実を踏まえたところにアイデアが放り込まれているものの、あとは東照宮の法輪が仏力を放射する大砲になっているなどと、バカバカにファンタジーの領域に踏み込んでいる辺りが面白い。非常に絵になる作品で、バカ小説好きにも時代伝奇小説好きにも安心して薦められる。
その一方、アイデアがぎゅうぎゅうに詰まりすぎて、上手く整理できていないというのが致命傷だろうか。剣戟を中心に勢いよく物語が進むなかにあっても、歴史的な側面が説明的になってしまっていることも多く、勢いのよさが少々鈍ってしまっている。ラストの怒涛の展開も「物語」と「説明」がごちゃごちゃになって、せっかくの奇想が勿体なくなっている。
ついでに、時代伝奇としてのアイデアを楽しもうと思って読み進めると、その中心となるアイデアはいささかありきたりなものなので、ちょっと肩透かしを食らうかもしれない。玉もゴミも盛大に放り込まれたカオス感が本作の一番の魅力だと思う。

景元は目を瞠った。それは神秘の琥珀色に発光する巨大な半透明な岩石だった。