MOUSE

MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)

MOUSE(マウス) (ハヤカワ文庫JA)

才気煥発、マキノの傑作。多様なドラッグの多量摂取ででろでろになってる子供たち(マウス)と、彼・彼女らが集う廃墟の町〈ネバーランド〉での暮らしを描いた連作短篇集。
そのアシッドな世界観と歪んだ日常を描くために、文体で逃げてないところが当たり前に素晴らしい。手がナイフに変貌し、部屋のなかに川が流れるといったドラッグによる妄想が、なかなか巧みに描かれている。ディックのように客観がぐずぐず崩れていくというよりも、ドラッグでべろべろになった主観のすりあわせで世界が成り立っているところが本作の魅力だ。
彼らの日常も主に他のマウスとの衝突で、研ぎ澄まされた五感による超能力バトルのようだ。が、ここでも言葉は大きな力を持つ。相手の真の名前を知れば優位に立てるなどの「ルール」や、言葉のトランスで他者との共通認識をはかるなど、意外と世界観は呪術的だ。としたら、本作はサイバーパンクな世界観に呪術的を融合した感じだろうか。
個々の作品ではサイコ・ミステリになったり、青春・成長小説になったりと、なかなかに多様。ラストの「ボーイズ・ライフ」(この章題もいい!)では〈ネバーランド〉を管理する側がその世界を崩壊させるという、ちょっとありきたりなオチになりそうなところで、最後にヒネリが入る。言葉の力で世界を一気に飛び越えていくラストが完全にギャグのように書かれているが、その圧倒的なパワーに目頭が熱くなってしまった。

「ぼくたちは、ノイズさ。そうだろ……意味は捉えられないんだ。……誰にも、ね」