ぬかるんでから

ぬかるんでから (文春文庫)

ぬかるんでから (文春文庫)

日本の文芸シーンだと、ナチュラルに変な感じの作品(内田百輭とか藤枝静男とか川上弘美とか)が多いように感じるが、これもその系譜に入るのだろうか? やっぱりよくわからない作品集。

基本は家族小説。主人公は夫であったり、子供であったり……しかし、妻や親は自分にとってよくわかる存在でないのが印象深い。突発的に発生した危機的状況や不条理を前にしながら、そのよくわからなさを淡々――でも、諦念といったものは別にして――語る、静かでイノセントな視線が印象的だ。
ときには家族の代わりに、巨人やかばとの異種との交わりともなるが、やっぱりテイストは代わらない。相手をよくわからないと思いつつも、静かに共生へと向かう。それを大真面目に語るところから、逆説的に生じるユーモアが佐藤哲也の持ち味なのだろうか。
個々の作品では、突然世界が危機的状況に陥る神話的な「ぬかるんでから」や、徹底的にバカバカしい「やもりのかば」「つぼ」、なんともやるせない不条理譚の「巨人」「夏の軍隊」が非常に印象深い。
人によって好みがわかれそうだが、個人的にはしっかり楽しませてもらいました。

これは奇跡に関する物語だ。