血液と石鹸

血液と石鹸 (ハヤカワepiブック・プラネット)

血液と石鹸 (ハヤカワepiブック・プラネット)

ベトナムアメリカ作家による、超掌編集。長いのは10ページ程度、短いのは数行。なかには作品未満のスケッチ風のや、一発ネタのようなものもありと、人を食ってるというかなんというか……。

全体的に語学を習得することにまつわる話が多い(ベトナムからの亡命作家というディンの出自が関係しているのだろう)。ある人間が自分の言語を書き換えることで世界が規定され、さらに想像力をも超えていく。謎の言語による世界とこれまでの世界との間の距離感が不思議な印象を残す「囚人と辞書」や、言語から食物を想像していく「食物の招喚」、ある外国人が延々と英語を唱え続ける「自殺か他殺か?」など、ぬけぬけとしたアイロニカルなユーモアが非常に面白い。
一冊を通して、縦横無尽に「言語」と戯れてみせるディンの筆致は他に類を見ないユニークさだろう。しかし、それが「面白い」という感想に直結しにくいという感じもするのだが。

他にもインチキ映画レビュー「ただいま上映中」や一発ネタ集「一文物語集」などとバラエティーに富む作品集だが、正直ムラがありすぎな気が……。37の掌編が収められているが、このなかから10程抜き出した選集くらいで丁度いいように思った。まあ、全て素晴らしい掌編集などそうあるものじゃないけどさ。

でもなんでそんなことやってるんだ? とあなたは問うだろう。知らないのか、自分たちが偽の言語を勉強してるってこと?