芝生の復讐

芝生の復讐 (新潮文庫)

芝生の復讐 (新潮文庫)

リチャード・ブローティガンが1962から70年までに描いた掌編が62編。ほんの数行で終わる作品から、10ページ程度のものまで長さはばらばら。どうやら自伝的要素が強いらしいが、これがブローティガン初読みなのでよくわからない。

密造酒、珈琲、マリリン・モンロー、ラジオといった当時の風物を交えながら、カリフォルニアの生活・ちょっと不思議な光景を描いた作品がメイン。小説に物語を求めてしまう人には物足りないのではないかと思われるが、一瞬の光景やセンテンスに目を奪われてしまうといった人には非常にオススメ。
なんせどのページを開いても、そこにもの凄くカッコいい文章が潜んでいる。余分な夾雑物を排して、ときにドライに、ときに瑞々しく透明に美しく、イノセントな情景が端正に描かれていく。それが端正であると同時に、繊細な工芸品のようにも感じられていて、読んでいる間それが手からこぼれ落ちてしまうような不安感に苛まれていた。人によってはノスタルジーを強く感じるかもしれない。
このブローティガン藤本和子訳の)が日本の現代文学に影響を与えてもいるらしい。ちょっと病み付きになってしまう作品。

そのとき、わたしたちはといえば、雨のトレーラーのなかに坐りこんで、アメリカ文学の扉を叩いていたのである。