神秘な指圧師

神秘な指圧師 (V.S.ナイポール・コレクション 1)

神秘な指圧師 (V.S.ナイポール・コレクション 1)

インド人もびっくり! カレーの宣伝にでも使われそうなこの装丁は如何なものか……と突っ込みたくはなるが、たしかにこの装丁がぴったりな珍奇な作品だった。これでもノーベル文学賞受賞作家の作品です。インドの家系の生まれで、カリブ諸島の英領トリニダード・トバゴ島生まれ、小説は英語での執筆。

「神秘な指圧師」ガネーシュの一次大戦頃から戦後にかけての出世を描いたユーモア小説。名士の生まれで教育も受けたことから、周りから一方的に尊敬されるガネーシュは、教員生活に馴染めず、本好きが高じて毎日本を書くぞ書くぞと息巻いてばかり、そしてなんとなく指圧のことなど何一つ知らないのに指圧師になる、そして何故か成功を収めたことからヒンドゥーの神秘家になり、立法議員になり、終いには大英帝国勲爵士にまで上りつめる……なんとも荒唐無稽な作品だ。

まあ、大概が胡散臭い作品だが、この島で大事なのは教育よりも周りから尊敬を得るためのバック・ボーンとなる。父親の業績もそれだし、教育を受けたことがあるという経験もそれだ。ガネーシュが最初「ちゃんとした英語」で本を書こうとしたが、すぐにバカバカしくなって笑ってしまう下りのなんとも可笑しいことか。後に議員占拠で争うインダルシンが綺麗な英語を使い、極めて論理的な物事を考えられるにも関わらず、ハッタリ家ガネーシュに大敗を喫してしまうのもそうだ。この奇妙な現地英語を広島弁に訳してしまうのはどうかと首を傾げたくなるが、たしかに本作の滑稽なユーモアが上手く表現されている。慣れてくると、ちょっと病み付きになりそうな作品だ。原書で読み比べをしてみたい作品でもある。
やたらと近代(モダン)という言葉を使いたがったり島人や、終盤ではコカコーラに代表されるアメリカナイズド、島の人もガネーシュも考えることが皆適当だったり……と島の文明化のあり方が滑稽に描かれていて面白い。しかし、いかにも現代作家が取り上げそうなものだが、本作が描かれたのは1957年とかなり早い。当時これが英国でどのように受け取られたのか気になるところだ。

ガネーシュが政治家に成りあがってからは、物語が徐々にシリアスになっていく。ラストの一行があまりにも感傷的なので驚いたが、これはナイポールの作家としての方向性を定める重要なポイントなのだろうか(本作は処女作なので)? ちょっと継続して読んでみたくなった。

まったくじゃ。教育と読書はどうも身のためにならん。