ヨットクラブ
- 作者: デイヴィッドイーリイ,David Ely,白須清美
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2003/10/01
- メディア: 単行本
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かつての《晶文社ミステリ》叢書の一冊。是非とも早川書房の《異色作家短篇集》と並べたい一冊。全体の水準が非常に高い。
基本的なテイストは、日常がじわりと非日常へと溶け込んでいくといったあたり。その全体のレベルはダールやエリンのトップクラスの作品に比肩する、といっても全く過言ではないだろう。日常に疲れきった富豪たちが船上でささやかな愉しみを見つける「ヨットクラブ」の急転直下の結末は、唐突のように感じられつつも強い衝撃を残す。「理想の学校」や「日曜の礼拝がすんでから」といった掌編も、その短さにあわずその辛辣な皮肉の毒が素晴らしい。オチの衝撃度では、タイムリミットサスペンスものの「カウントダウン」があまりにも衝撃的。ことさらイヤ〜な作品だ。
その一方で、ちょっち変な作品も。中篇の「タイムアウト」は原子力“事故”で消滅したイギリスの歴史を復元する……と設定からしてイカレているが、歴史を作るという点から話は次第に暴走を始める。時間を過去に遡らない、アホ歴史改変SFとも読める。集中ベスト作品。
「面接」も「理想の学校」のように規律・規範への辛辣な批評なのだが、面接を受ける人間が怒涛の如く言葉を奔流させていくラストは、筒井康隆の香りがぷんぷん。
ラストの「オルガン弾き」は機械オルガンとその演奏者をめぐる話。機械と人間との関係がどんどん暴走をはじめる、音楽小説の佳品。
全体的に現代(といっても作品が発表されたのは1968年だが)への鋭い批評に支えられた作品が多いが、それに依らずアイデアも叙情的な筆致も一流のもの。短篇が好きなら、絶対マストの傑作。
何かが隠されていた。妙な拍子にちらりと見え隠れする、抑圧された興奮のようなものだ。何やら、途方もない身内だけの冗談を分かち合っているような。