迷宮の暗殺者

迷宮の暗殺者 (ヴィレッジブックス)

迷宮の暗殺者 (ヴィレッジブックス)

プロローグから前向性健忘症の人が出てくるし、その治療に当たる医学博士の息子の名がクリストファー……如何にもクリストファー・ノーラン監督の大ヒット映画『メメント』を思わせなくもない。
バカミス、サプライズ、アホ!云々という評判から読みはしたが、いまやこの手の記憶を扱った作品は珍しくもなんともない。大して驚きはしないだろうと、ひねた気持ちで読んでみた。
……なるほど、こりゃ驚くわ。先の展開を予測しても無駄だろうな。しかも、このサプライズが物語の中盤に起こり、以降もその珍設定のままオフビートな物語が展開されるのだから驚き入る。

基本的な物語の流れは、天才殺人者チャーリー・モンクと大企業の陰謀に巻き込まれた医学博士スーザン・フレミングという二人の主人公によるB級スパイ小説。この二つのパートが交差するところにサプライズが待っている。
しかしまあ、この終盤の物語は中盤のアホネタに比べると、真っ当になってしまって物足りなさが残る。SF的なネタを使うにも、脇があまい。どうやらアンブローズさんはギャグでなく大真面目にこのネタを書いた節があるのだが、それなら一瞬の瞬発力だけでなく持久力にも気を遣ってほしかった。

これを素直に笑えるかどうかで、その読書家の資質が問われる作品、かもしれない。とりあえず、僕は失笑というほかないのですが。

それでも……やはり……いったい、なにを思い出そうとしているのか? そして、なぜそれがそんなに大事なのか?