あまりにも騒がしい孤独

あまりにも騒がしい孤独 (東欧の想像力 2)

あまりにも騒がしい孤独 (東欧の想像力 2)

チェコ本国ではミラン・クンデラよりも人気のある作家らしい。ホンマかいな……と眉に唾をぬりぬり読む。これが短篇以外では初邦訳の作品となる。

ナチズムとスターリニズムの両方に蹂躙され続けるチェコで、古紙処理係のハニチャは三十五年間、大量の本をプレスし続ける。時おり見つかる美しい本を救い出しては、それを家に持ち帰り読むのを生きがいにしている。

シュールな作品だ。どこからともなく本が大量に降ってきて、それを毎日プレスして暮らす、この奇妙な光景はブッキッシュな人には恐ろしいものだが、なんとも不条理な可笑しさに溢れている。そして、社会の底辺にいる古紙処理係が大量の本を得るために、誰よりも優れた知恵を得ることになるという逆説。この上下の倒錯した構図は、当時の情勢をかなり強く反映したものらしい。また、ハニチャはこの押しつぶした本のキューブに美しい絵画を貼り付けて遊ぶが、そこに聖と俗の共存している。本作では「本」という神聖な存在が政治的圧力によって汚物にまみれているのだ。仕事場には本と同時に大量の蛆も投げ込まれるし、溝鼠は戦争を繰り広げている。短いながらも濃厚な文章でこってり描かれているため、ときに顔をそむけたくもなってしまう……。
しかし、グロテスクでありながらも滑稽な点も多い。ハニチャは常にビールを飲んだくれるが、幻想のなかでイエス老子が現れて丁々発止を繰り広げる。そこで語っていることもよくわからないが、この悪夢的な作品にあっては愉しいものだ。
最終的にはハニチャの唯一の楽しみである仕事も社会主義が加速することによって奪われてしまう。知識の拡大をもした本のプレスは最終的には、ハニチャとプラハをも押しつぶしていく。失意のうちに見る悪夢の中で視る光景は、自殺か救いか……。

かなり読み慣れない類の作品であり、朦朧とした意識を垂れ流すような文章のリズムのため読むのに苦労したが、解説が懇切丁寧なので助かる。一読してもよくわからなかったので、是非再読をしたい。

僕は、いろいろな思想が住み着いた孤独の中に暮らせるように、独り身でいるだけだ。というのも僕は、ちょっとばかり無限と永遠の偏屈人間だからで、そして無限と永遠ってやつは、たぶん僕みたいな人間が好きなんだ。