最上階の殺人

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

なんかスレカッラシに、「バークリーだから変なことやってくれるんだろうなー」と思って読んでしまうと、なんとなくオチが読めてしまってダメだ。それでも、落とすタイミングやテンポがあまりにも絶妙なので、やっぱり大笑いしてしまった。

バークリー一流のゴシップ・ミステリ、あるいはラブコメ

アパート最上階で老婆が殺された……とまあ、不謹慎な言い方をすればありきたりの事件。それに対して、メイ探偵シェリンガムが想像力(妄想力?)を膨らませて、事件に挑む。結局のところ、シェリンガムが駆使するのは推理力ではなくて、想像力なのだ(多少は推理もするけど)。事件の関係者に当たって人当たりが良かったら殺人はしないだろう、か弱い女性だったら犯人じゃないだろう……というあまりな適当さ。あいつには裏の顔があるんじゃないかと思えば、イチャモンをつけて無理に怒らせようとしたり、ほとんど探偵のやることじゃない。でも、シェリンガムはそれでいい。探偵でありながらも、ブラウン管越しに煎餅かじりながら適当なことを言いまくるだけ……この感じが一番シェリンガムに相応しい。ただし、思い立ったらブラウン管の向こうへトンで行ってしまうのが問題なのだ。

そんなシェリンガムの相棒が被害者の銘のステラ。事件のために泣き崩れるでもなく、探偵に惚れたり賛美したりという常套もしない、舌はキレる、まあ当然美人ではあるのだが魅力(セックスアピール)はゼロ、仕事は有能……なんとも素敵だ。シェリンガムがアホやらかす度にやり込めてしまう。しかし、シェリンガムの命令で暴走もし、この二人の丁々発止が作品のバカバカしさ(ユーモア)に拍車をかける。ミステリ界の「最強ヒロイン決定戦」があれば、是非応援したい。

で、迷走のあげく辿りついた真相は……アホ! 頭を絞りに絞って女の直感に敗れるという点では、クイーンの『ハートの4』を思い出したりもした。しかし、単純にポカするだけでなく、シェリンガムが探偵としての見事さも同時に見せ付けるという、ひねくれた技巧とはなれわざ。

ミステリを読みなれない人でもそのバカバカしさに大笑い(ラストの数行で笑いは頂点に達する!)し、読みなれたマニアであればあるほどそのアンチ・探偵小説としての技巧に舌をまく。非常に希有な作家バークリーの傑作。

「言いたいことはおわかりのはずです。どこから見ても単純明快な事件を、わざわざややこしくしたがっていらっしゃるのではないかという意味です」