綺譚集

綺譚集 (創元推理文庫)

綺譚集 (創元推理文庫)

文章巧すぎ! 物語の構築力凄すぎ! とりあえず、幻想小説に美は不可欠だ……という人にとっては必読の短篇集。

一編一編どれも凄いのに、その作品から受ける印象は違う。文体も皆異なり、作品に凝らされた技巧も様々。巻頭に置かれた「天使解体」など表層的にはグロテスクな話なのに、そこには強い聖性すら感じさせる。結末で一気に彼方へと物語を飛翔させる「サイレン」「聖戦の記憶」の素晴らしい。村山槐多パスティーシュ「赤假面傳」文体模写、美にとりつかれた男の生涯。死者による際限ない意識の垂れ流しの「玄い森の底から」のグルーヴ感。「約束」の底がぬける結末の、不思議な心地よさ。歯に埋め込まれた記憶をめぐる「黄昏抜歯」のミステリ的な味付け。ゴッホの絵画を庭にて実現させようとする「ドービニィの庭で」の幻視力。どれも凄い凄い!

文章に、物語に酔うことの魅力が詰まった一冊。皆川博子の短篇集のように練りに練られた文章の凄みとその幻視力に恍惚とするような人なら、絶対未読では許されない。これからも何度も何度も読み返していきたい。

かくてわたしは炭になり灰になり、風に絡んで大地に蔓延り、沈沈たる森を育んでいる今日このごろ。
晧い空に枝枝が染みて、先生、きれいです。