冥途

冥途―内田百けん集成〈3〉   ちくま文庫

冥途―内田百けん集成〈3〉 ちくま文庫

なんだか、なんとなく、そんな気が、だろう……、視界に映るものみな、ぐにゃぐにゃ変容し続けて一定のイメージを結ぼうとしない、なんとも無気味で不思議な小説集。漱石夢十夜』のように、「夢」という枠組みを使うことなく、「夢」の風景を堪能させてくれる。

しかし、これは楽しく読みながらも、読んでいる間は不安で不安で仕方がない。何故だろう何故だろうと思いつつも、周囲ばかりが動き続けて、常に自分の期待が裏切られ続ける。自分が話の主人公でありながらも、同時に世界の脇役でしかない……だから、どうにも自分の立ち居地を確保できず、とにかく不安の念に駆られてしまう。突然暗い土手に放り出される表題作や、体だけ牛になってしまった自分が周りから予言を求められる「件」など、短い作品ばかりながら印象深い作品ばかり。

また、無気味さを感じつつも愉快な読書を味わえるのも、非常に闊達な文章力のおかげだろうか。五〇ページ程の「山高帽子」は、大学教師のうらぶれた(?)生活とひねくれた思考が、とうとうと饒舌に語られていて笑いが絶えない。

森見登美彦川上弘美(の変な作品)のご先祖様にあたるような、素敵な作品集。好みはわかれるのかもしれないけど、この文章の旨みにまいってしまう人も多いはず。

高い、大きな、暗い土手が、何処から何処へ行くのか解らない、静かに、冷たく、夜の中を走っている。