聖女の救済

聖女の救済

聖女の救済

『容疑者Xの献身』に続く、ガリレオ・シリーズの長編第二作。倒叙(今回はあまり強くないけど)、シンプルなトリックのありえない形での応用、キチガイな犯人……まあ、色々な面で『X』を踏襲した力作。

作品の焦点はほぼ全てが毒殺トリックに向けられている。だから、400ページ近い長編を一つの事件のトリックの検証・聞き込みのみでひっぱるので、正直読んでいてだるい……。が、そのぶんトリックの衝撃度は凄まじい。理論的にはありえるけど、現実にはありえない「虚数解」がトリックの鍵である。凡百の作家なら「バカミス」の一言で片付けるところを、こんな面妖な言葉で説明してしまうのだから大したものだ。
トリックの骨組み自体はよくあるものだし、それのみを期待すると全く面白くはない。が、あまりに意外な形で応用することで、犯人や事件の異様性を強調することに見事に成功している。シンプルなトリックを使って印象深い物語を組み立て、なおかつ本格ミステリとしてもレベルの高い作品を描くことにかけては、東野圭吾の右に出るものはいないのではなかろうか……。

と思いつつも、この作品かなり気持ち悪い。『X』はトリックと物語の不可分性が強かったが、今作は完全にトリックに物語が奉仕する結果となっている。そのため、犯人が被害者(こっちも非常に気持ち悪い)を殺そうとする動機もいまいちよくわからない。また、刑事の草薙が犯人にいきなり恋して、それを追い詰めようとすることに躊躇しつつも……というのがプロットの大きな原動力となっているのはわかるが、あまりに通俗的なメロドラマになってしまい、正直付き合いきれない。

トリックを全面に押し出せば押し出すほど、作品全体にどうしても歪みが生じてしまうという、ある意味こてこての新本格ミステリ。作品を読んでいて、どうにも据わりが悪くて仕方がなかったのだが、たしかに質の高い長編ではある。

こんな犯人はいない。古今東西、どこにもいない。理論的にはありえても、現実には考えられない。だから虚数解だといったんだ。