ピアノチューナー・オブ・アースクエイク

ピアノチューナー・オブ・アースクエイク [DVD]

ピアノチューナー・オブ・アースクエイク [DVD]

イギリスのキチガイ人形アニメーション作家ブラザーズ・クエイによる第二長編。アドルフォ・ビオイ・カサーレス『モレルの発明』とレーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』を原案としている。

マッドサイエンティストのドロスは歌姫のマルヴィーナを誘拐。自身の奇妙な演奏機械のコレクションに加えて、破壊的なオペラ演奏会を行おうと企てていた。機械調整のために招かれたピアノ調律師のフェリスベルトはその陰謀を止められるのか……?

とまあ、なんだか珍奇な映画。そうしたストーリーの流れが一から十まで懇切丁寧に説明されるわけもなく、終始映画は映像詩とでもいった体をなす。常に靄がかかったような異様な雰囲気に翻弄され続け……とにかく眠い! この美麗な映像に酔いつつも(だからこそ?)、序盤うとうととまどろんでしまった。今までクエイの上映で眠らなかったことは一度もない……。

映画の一番の見所はこの様々な奇妙な演奏機械。オートマトン(自動機械)ということだが、それがアニメーションで表現されている。モノ好き、ガジェット好きとしては嬉しい限りだが、あまりアニメーションのシーンがないのが残念。女性の体を模したような機械などもあり、その一つ一つの動きには悶絶させられるのだが。ティム・バートンとかの大きなスタジオを持つ監督以外で、長編の中にアニメーション表現を使いまくるのは、現在ではヤン・シュヴァンクマイエルくらいなのだろうか。

しかし、実写も含めて全体の雰囲気を楽しむ映画なのだから、あまり問題ないといえば問題ない。半分色を失ったような舞台や、ある機械の中に赤い池が現れたり、と映像の作りは抜群に上手い。オペラのシーンも崇高なまでの美しさ。またマルヴィーナ(アミラ・カサール)の神々しさと、家政婦アサンプタ(アサンプタ・セルナ)の肉欲的な美しさという、二人の対比には終始見とれっぱなし。この辺りだけでも、この映画は観る価値あり! と大プッシュはしたい。

物語はラストで運命論的な大きな輪のなかに取り込まれて終わる。初めはこれはどうか……と思ったが、やはり幻想映画らしく狭小な現実に奉仕しないほうがずっといい。まあ、万人受けはしないだろうが、夢のような幻想映画好きは必見。

以下、トレイラーの動画を。