巨匠とマルガリータ
巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)
- 作者: ミハイル・A・ブルガーコフ,水野忠夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/04/11
- メディア: ハードカバー
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しかし、これをいかめしい顔して読むよりは、文庫とかでぱらりと読んで軽く笑いたい。そんな強大なコミック・ノヴェル。
モスクワの町を混乱におとしめる悪魔の一味、イエス賛美の小説を社会からめたくそにされたせいで、原稿を焼きはらい、精神病院に引っ込んだ「巨匠」、それに盲目的なまでに献身的な愛をそそぐマルガリータ。その三者による物語。
といっても、「巨匠」やマルガリータが登場するのは中盤になってから。はじめはとにかく悪魔大活躍。その矛先はほぼソ連の作家協会へと。首をはねられ、ヤルタにぽいっと飛ばされたり、勝手に知らない契約をさせられたり……間には悪魔の黒魔術ショーが見世物とされたり、とにかく途方もないバカ話。悪魔にひどい……という印象もいだかなければ、ひどい目に会う人たちも可哀想と思わず、ただただ笑い転げるばかり。視点もテンポよく移り変わり、一気に読めてしまう。
後半にいたって、マルガリータが登場してから、さらにさらに物語は加速。第一部と第二部の間の「私に続け、読者よ」なんて言葉にまた笑う。
そこからマルガリータ達の「巨匠」救出作戦(なんて大袈裟なものでもないが)に向かう。だからといって、ブルガーコフ自身作品が出版できなかったという事情を鑑みて、社会主義批判の書と考えてしまうと、本作は狭小になってしまうようでいただけない。むしろ良い作品は時代を超えて残り続ける、という物語の不滅性にこそ注目されるべきだ。「巨匠」の物語が灰から蘇える光景はとにかく力強い。
本作はとにかく三十分の連続アニメにしたら大受けするのではないかと思った。登場人物たちのキャラ立ち具合(特に猫のベゲモートが凄まじい)、テンポもよいし、黒魔術ショーや死霊の宴のシーンはインパクト大。……と考えて、アニメ化希望(?)。
原稿は燃えないものなのです。