アムネジア

アムネジア

アムネジア

困った。
幻想小説というなら、物語の真相を掴もうとした瞬間、それがすりぬける、そして指が一本か二本かかったまま、物語は終わる……くらいの幻想味が心地よい。しかし、本作は結局のところさっぱりわからない。指が一本もかかっていないし、物語の真相に多少なりとも肉薄したという感触すらない。
なんじゃこりゃ……。

物語は何故か闇金にまつわる調査から始まる。このやたらと現実的な始点が嫌になって、読書をやめてしまいたくなる……が、油断は大敵。というか、油断しようが気をつけて読もうが、あまり変わらない気もする。気がついたら、物語はわけのわからないことになっている。
単純に文章が下手で理解不能……とか、そういう問題ではない。むしろこの幻惑感が上手く出るよう凝らした、という点で非常に上手い文章なのだろう。

じゃあ、本作がつまらなかったかといえば、なんだかんだで楽しんだ。ならば、何が楽しかったかと問われると、やはり答えに窮する。

かみのけ座αの壮大なイメージだけは印象深く残り、あとはなんのことやら……。イメージだけ脳裏に浮かべながら、主人公の記憶がこぼれ落ちていく感覚にまどろむ……というのが、本作の一番正しい楽しみ方なのかもしれない。まあ、あとは再読時の楽しみにしよう。

今の私? 奇妙ないいかただ。まるで過去の私があったような、未来の、次の私があるような。私は常に私でなくなっていくというのに……。

☆☆☆☆☆?