忌館 ホラー作家の棲む家

三津田信三の処女作。現実と作中作の境界が溶け合っていく、メタっぽいホラー小説。

昔惨殺が起こった館に、作家が引っ越してくる。そこで奇妙なことが起こる。体調の悪化。身に覚えのない小説、記憶……。と道具立て自体は、非常にベタ。そのぶん安心して読めるが、物語の展開に驚きはない。

が、主人公が三津田信三自身。また、《ワールド・ミステリー・ツアー13》誌の編集や、短篇の執筆と適度に(?)実際のところを絡めてあるため、そういった興味やホラー小説、映画に関する薀蓄という点でも楽しく読める(149〜151ページのイギリス怪談傑作リストは必見!)。
特に舞台となる人形荘が英国の館の移築であることからも、「幽霊屋敷」もののような英国正調怪談に対する愛着は強いことがうかがえる。のだが、現実がホラー的なもので覆われていく展開ややや安易に過ぎず、どうしてもB級ホラー小説のノリ。それを素直に楽しめればよいが、いささか肩透かしを食らったのも事実。ラストで「信頼できない語り手」によって、物語の結末を三通り用意するやりかたも悪くないのだが。

ただ作中作の「忌む館」がどんどん粘着質を増していくいや〜な怖さはなかなか。少々作者の狙いがそれた感はあるが、そのにちゃりとした感じは好み。怖さという面では、まずまずの佳作。

にちゃり――という笑いの音が、した。