黒いハンカチ

黒いハンカチ (創元推理文庫)

黒いハンカチ (創元推理文庫)

1958年に発表された短篇集。初出誌は「新婦人」とのこと。

雑誌が雑誌なだけにミステリ色が強いわけではないのだが、作者の飄々とした筆致がとにかく楽しい。探偵役のニシ・アズマも趣味は午睡といわんばかりの変わった人物だが、事件が起こると意外と行動的。

直接的に事件に介入しようという様はホームズを思わせる。また、何が起こっているのかわからぬままに、いつの間にか解決しているという不思議なテイストは、チェスタトンのブラウン神父を思わせもする。探偵役を印象付けるためのロイド眼鏡も、ホームズのパイプのようにいい味を出している。

古きよきモダンな香りと瀟洒な雰囲気。当時のちょっと洒落た小説といった感じだろうか。指輪、ハンカチ、シルク・ハットから、舞踏会に喫茶店と……小道具や舞台が煌くように描かれる様は非常に楽しい。一番印象深いのは「スクェア・ダンス」

掛けていた大きな眼鏡を外したニシ・アズマは笑って答えた。
――外すと直っちゃうんです。