阿弥陀(パズル)

エレベーターに乗ったまま、ある女性が消失。通称「エッシャー・ビル」という密室内の人間消失に、風水火那子が挑む!

とまあ、この一つの謎にあーでもないこーでもないと仮説を立てては、それを壊していくだけという、骨格自体は非常にシンプルなミステリ。

とはいえ、仮説の中から次々と新たな疑問を提出しながら、考えられる可能性を次々につぶしていく展開は、まさにタイトルに見られるように「阿弥陀くじ」そのものだ。一番最後の解決に満足いくかは微妙だが、それもまたご愛嬌。この推理の過程を追っていくこと自体が面白いのだから。

しかし、それよりも一つのビル内だけに焦点をしぼった、群像劇として非常にユニークだ。探偵役の風水火那子も他人との関わりを強くもとうとしない「風」のような登場人物として現れるが、この舞台そのものが「他人への無関心」への象徴とも思われる。

身近にいても何をしているかわからない。そんな他者がこの狭いビルという舞台でも、皆せせこましい画策をしながら生きている。それが無理なく解決へと結びつくことで、微笑ましい密室喜劇として魅力的な物語に仕上げている。

さくっと読めるコンパクトな佳作。

「ね、かんたんなパズルでしょう?」