私が殺した少女

私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

私が殺した少女 (ハヤカワ文庫JA)

沢崎シリーズの第二弾、ハードボイルドの花形とも言うべき(?)誘拐を扱った作品。そして前作の『そして夜は甦る』よりも、ハードボイルドとしての魅力はかなり増したように思う。
探偵の権威におもねらない軽口・へらず口が原籙の魅力だが、その台詞回しに磨きがかかっている。沢崎の応対する人物が警察、やくざ、おっさん、おばはん、子供……と増えて、一人一人の輪郭が増したせいだろうか。なかでもバーテンダー(脇役)とのプロ同士(?)の丁々発止はなかなかにかっこよい。
「私は上衣のポケットからタバコを取り出した。バーテンダーもベストのポケットからデュポンの金のライターを出し、火をつけて差し出した。私のマッチのほうが一瞬早かった。消したマッチの下に、目にも止まらぬ早業で小さなガラスの灰皿が出現した。こっちが一点先取したが、その裏ですぐ同点に追いつかれた気分だった」といった具合に。こういったどうでもよいところに、作品の魅力が光る。
プロットもなかなかに緊密なので、本格ファンに薦めやすいハードボイルド作品だ。ただしオチはしょぼいため、肩透かしを食うかもしれない。
チャンドラーのフィリップ・マーロウの模倣から始まったという沢崎のキャラだが、初めは「かっこいい」を体現しすぎて恥ずかしくも思ったが、慣れてくるといかにもな「かっこいい」のパロディのように感じられて、あまり気にならない。というと、原籙信者には怒られるのかもしれないが……。

人間のすることはすべて間違っていると考えるほうがいい。すべてが間違っているが、せめて恕される間違いを選ぼうとする努力はあっていい。