生き屏風

生き屏風 (角川ホラー文庫)

生き屏風 (角川ホラー文庫)

村はずれで暮らす妖鬼の皐月と人間たちとのゆるいつながりを描いた短篇集。日本ホラー大賞の短篇賞受賞だが、ほのぼの系のユーモア小説といった感が強い。
病で死んで屏風に転生した(?)酒屋の奥方をどうにかするという依頼を受ける表題作や、若旦那(バカ旦那)が雪に変身して恋人や村人の下に降っていくという、珍妙な変身譚の「猫雪」、人間に恋愛相談を受ける「狐妖の宴」など、いずれもすこし不思議なところが持ち味。
田辺青蛙ビーケーワン怪談大賞のショートショート出身だが、そういった短い物語を幾重にも積み上げることで、人間と妖怪の間を描いていくことが上手い。このゆるゆるとした語りの数々が魅力的であり、穏やかで愛すべき小品といった持ち味が出ている。
最近の作家としてはちょっとびっくりするくらいゆるくて薄味だが、食べ物や酒のひとつひとつを美味しそうに描くところとかは、ちょっと川上弘美の作風に近いところもある。今後が非常に気になる作家だ。

「馬の首の中で眠るってのは、一体どんな気分なんだい?」
「布団の鼓動や、息遣いが聞こえます。それにとても温かくて、守られているような安心感に満たされます」