傀儡后

傀儡后 (ハヤカワJA)

傀儡后 (ハヤカワJA)

人は服を着ているのか、服に着られているのか。服は世界と自分との間の壁なのか、また別のものなのか。そんなことを考えさせられる、服SF。あるいはストッキング(タイツ)萌え小説。
破滅的な隕石落下によって異形の街と化した大阪で、ドラッグ・異形・人形……といった奇妙な物とトチ狂った人々が暴れ廻り……といった手触りは『MOUSE』を思わせる。
ただし、それに増してパワフルなのはガジェットの数々。皮膚がゼリー状になる麗腐病、世界と己との垣根を壊して融合へと向かうドラッグ「ネイキッド・スキン」、装着住居、着た人物を別の生物へと変貌させる「ターン・スキン」……小道具の一つ一つが非常に魅力的だ。そのいずれもが「皮膚」に関するものであり、皮膚に直接訴えかけて世界の崩壊を描いていくあたりが、牧野修らしいところ。壊れきった世界観に、ドラッグの摂取でますます崩れていく異形の世界、そしてさらにはドラッグの力によって世界を己の内に取り込んでいくラストは圧巻の迫力だ。
ダメ探偵にダメ助手、痴呆症の老人暴力団組長といった登場人物も面白いが、物語の展開よりもこの世界に浸るのを楽しむ本だろう。このぐじゅぐじゅっとした皮膚感覚を描くにこそコワレた文章を期待したいものだが、そのコワレ具合では『MOUSE』程ではないのが少々物足りない。

ここの物語はひとつに結び合い溶け合い、地球の物語となる。この星の皮膚は素晴らしい墓標となるのよ。