アクアリウムの夜

アクアリウムの夜 (角川スニーカー文庫)

アクアリウムの夜 (角川スニーカー文庫)

英文学者としても様々な著作のある横山茂雄の(余技的に描いた?)第一長編。どのような経緯か知らないが、ラノベで復刊されている。心霊ラジオ、こっくりさん新興宗教……今青春小説として楽しむには小道具が古びている気がしなくもないが、一九九〇年の作品なのでそこはご愛嬌。

「脅威の科学魔術」カメラ・オブスキュラ(巨大なカメラの中に人が入り込むようなもの?)で映し出された水族館に、存在するはずのない地下への階段が存在した。それをきっかけに、主人公たちはこの世界の裏側へと足を踏み入れていく。

レンズを通して新たな世界を見つけるというのは、どこか江戸川乱歩のモチーフを感じさせる(「押絵と旅する男」とか)。それが地下へ……というあたりも、長編『大暗室』に通ずるものか? 見慣れぬ世界にどこか恐ろしさを感じつつも、やはり惹かれてしまう……それは当然だろう。が、本作で待ち受けるラストはあまりに暗澹たるものだ。
この重たい結末を回避する方法はいくらでもあったのではないか……と思いつつも、やはり高校生も大人も誰も彼もがこの異世界への憧れを抱いている。結局のところ、これは必然の結末なのだろうか。

同時に物語は幾つもの謎を抱えたまま幕を閉じる。これは主人公の単なる妄想なのか、もっともっと多くの人間が妄想に飲まれているのか、何者かの悪が事件に介入しているのか。単なる街ものホラーの枠を超えて、不思議な酩酊感のみが残される。なんとも奇異な小説だ。

見なれた街角が解読できない暗号文に変貌する。