盗まれた街

盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)

盗まれた街 (ハヤカワ文庫SF フ 2-2)

超古典的(?)侵略ものSF。

親兄弟友人……とよく知っているはずの人がいつの間に別人に……。顔貌は同じなのに、そこか違う。感情が抜け落ちているんだ……。という序盤のつかみは最高。ホラー作品ではあるが、徐々に怖さを醸し出すこのゆったり感はたまらない。

ノスタルジア」な味わいで有名なフィニィだけあって、この怖さを前面に押し出した絶望的な作品にはしない。なにせ舞台はアメリカの南西部の片田舎だし、この侵略者たちも宇宙から飛来したさやえんどう(?)みたいな物体だ。このどこか抜けたような感じが、作品に落ち着いたほのぼの感を与えているように思える。

だから、読者もゆっくりと田舎の描写を楽しむつもりで、登場人物たちの逃走劇を楽しみたい。ラストはご都合主義のようにも感じるが、それはさして問題ではない。世は全て事もなし……、宇宙人の撃退が小さいスケールで描かれるところに、本作の妙味がある。

ノスタルジアは「場」への郷愁だが、それが故郷であれまだ見ぬ不思議に満ちた世界であれ、そこへの憧れの想いである。侵略者を撃退した後にフィニィによって描かれる「場」への思いは、どこまでも広がり、読者に印象深いものである。

だが……今日なお世界のどこかでは、空から蛙や魚の雨が降り、原因不明の小石の雨が降っているのだ。