幽霊たち

幽霊たち (新潮文庫)

幽霊たち (新潮文庫)

オースターのニューヨーク三部作の第二作。文庫で百ページちょいなので、さくっと読める。

このさくっと読める感覚がたまらない。探偵のブルーがホワイトからブラックの見張りを頼まれるも、事件らしいものは一切起こらない……というだけのシンプルなストーリー、むしろストーリーがあるのだかないのだかといった話だ。それにも関わらず、読んでいて退屈に感じることはない。
ブルーが次第に精神的に追い込まれていく過程において、大量に推理らしきものが蕩尽されていく。なにか裏があるのではないか、と必死に事件の可能性を嗅ぎ取ろうとする。結局、全て妄想の域を出ないわけだが、その流れがとにかく楽しいのだ。

ラストの真相(と言ってもいいものか?)には、あまり意外性を感じる人はいないかもしれない(これを推理小説として読んだ場合)。だが、最後のブルーとホワイトの対話は非常に印象深いものだ。
『シティ・オヴ・グラス』にしてもそうだが、オースターの作品では自己と他者との関係を描くにおいて、非常に対話が美しく描かれている。

このくすんだような街では、自己も他者もなにもなく、ただ皆が動き回っているだけに過ぎない。終局的にはどうでもいいといった、孤独の裏返しの感覚にすら陥る。
その意味では、本作のラストにはこの運命を飛び出そうとするような救いが見られるのが微笑ましい。本作ではブルーもホワイトもブラックも皆のっぺりした登場人物に過ぎないが、昔にこの街を飛び出しているブラウンのみが生き生きとしていることからも、それが伺えようというものだ。

人はみんなどこかに分身がいるものだって。あたしの分身が死人だとしても、べつに不思議じゃない。