人喰い鬼のお愉しみ

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

人喰い鬼のお愉しみ (白水Uブックス―海外小説の誘惑)

この作者、どちらかというと一般小説(純文学?)作家に分類されているようだ。そのためか、ミステリとしては非常にユニークな仕上がりを見せている。

謎の焦点はパリの某デパートの連続爆破事件という、それ自体ちょっと変わったものだ。が、物語はなかなか謎の解決へと向かわず、とにかくマロセーヌ一家が謎をこじらせるばかり。最終的には飼い犬も含めて、一家全員が事件に直接、間接的に関与するという騒ぎ。特にどうやってデパート内に爆弾を持ち込んだのかという問題への関わり方は、珍奇なトリックであるだけでなく、爆笑ものの解決を見せてくれる。

また、主人公のバンジャミン・マロセーヌの造詣も魅力的。苦情処理係として客の前で上司に叱られ泣いてみせるのが仕事というのも突飛で、とにかく哀れと笑いを誘う姿となっている。が同時に、これで果たしていいのだろうか? というバンジャミンの苦悩もまた主題にもなってくるのだ。個人の尊厳か一家を養うために仕事をとるか……という問いもまた、現代的かもしれない。
そして、そのようなユニークな設定が犯行全体に関わってくるのもまた驚きだ。この「職業的犠牲」が、現代の唯物主義的な社会でどう扱われるのか命題が、事件全体に潜んでいる(解説にもあるが、非常にバタイユ的)。

この重い問いにもペナックは軽い筆致で応えてみせる。読んでいて楽しい、オススメのユーモア・ミステリ。

わが人喰い鬼たちの目に聖人として映ったのだ!