迷路のなかで

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

迷路のなかで (講談社文芸文庫)

ヌーヴォー・ロマンの旗手、ロブ=グリエの代表作。正直誰にも薦められない、という点では究極の本。
ただ友人に贈物を届けるというだけのために、兵士が謎の町を彷徨し続ける……というだけで、特に強いストーリーラインがあるわけでもない。延々と執拗なまでの幾何学的な町の描写が続くのみなのである。

ロブ=グリエにとっては町も部屋も全ては直線と曲線のみによって成り立っている。そう言っても過言ではないのだろうか。ここに著者自身や作中人物の心象風景を読み取るというよりは、本当にそういう世界であるというほうが正しいかもしれない。
しかし、話が進むごとに、兵士の妄想的な視線も徐々に介入し始め、無機質な直線と曲線もまた歪み、廻り始める。読者はそれをただただ読み進めることしか出来ない。
面白くはない、かもしれないが、一読巻を置くあたわざる……という感じで、麻薬のような効果がある。ひたすら朦朧とした……異常な読書体験を約束してくれる。

では、それが一体何を意味するのか?
色々深読みすることは出来るのかもしれないが、正直それも必要ない気がする。この朦朧とした酩酊感のみで十分だろう。最初はとっつきにくいという他ないが、十ページ過ぎてから妙に執拗な文章に頭にこびりついてくる。
それを素直に楽しみたい。

ここに描かれているのは、厳密に物質的な現実、つまりいかなる寓意的な価値をも意図していない現実なのだ。だから読者は、彼にむかって報告される事物・動作・ことば・事件だけを見、そのなかに、自分自身の生、ないしは死にたいする以上にも以下にも、意図を与えようなどとしないでいただきたい。(序文)