ずっとお城で暮らしてる

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

素晴らしく、いや〜な気持ちになれる傑作。その手の作品が好きなら、うっとり陶酔するかもしれない。いや、でもイヤ傑作。
家族が謎の毒殺されたお屋敷で、娘のコニーとメアリ・キャサリン・ブラックウッド(メリキャット、このネーミングも絶妙すぎる)、そして伯父のジュリアン。事件がきっかけで悪意をぶつけてくる村人に対し、家族は皆「幸せ」な生活を送っているが、そこに常人の従兄がやってきて……。ああ、この設定だけでなんか幸せになれる。

これを読んでいると気づかされるのは、メリキャットたちの世界を眺める視点がイカレていることだ。家族に対し嫌がらせを執拗に続ける悪意の塊である村人たちが「ふつう」の人に見えてしまうくらい、メリキャットたちの外部への無関心と幸せな共同体の存在が不穏で、とにかく恐ろしい。少し外に目を向けようとするコニーや、「みんな帰ってくるなら、なんでも差し出すのにと思うことがあるんです」と語るジュリアンは、まだマシかもしれない。が、メリキャットにとって世界が見事に完結しており、とことん病めるも美しい。
人間の「悪意」や「狂気」を描いた作品は、それが臨界点を突破してカタストロフで終わるのが、普通だと思う。その点、この作品の一番クレイジーなところは、その悪意が爆発した後にある。その一大カタストロフの後、世界が新たに再生されるのか、一層ひどいところへと転落するのか、それは読んでからのお楽しみとして、ラスト50ページの超展開に呆然唖然としてしまった(といって、妙な期待をするべきでないかもしれないが)。この「悪意」のカウンターのあり方は、短篇集『くじ』とも共通するところか。

徹底的に人間の「悪意」をえぐりぬいてしまった作品だが、厳密にこの作品で描かれているのはちょっと違うような気もする。「好き」の反対が「嫌い」でなく「無関心」であるように、このラストはそれに近いかたちでの徹底的な世界の拒絶だ。だからこそ、世界の完結の仕方が途方も無く強靭で、どこまでも恐ろしい作品になっている。

メリキャット お茶でもいかがと コニー姉さん
とんでもない 毒入りでしょうと メリキャット